事例紹介セミナー
「長野県須坂市」
2018年2月21日、第1回 地方創生 EXPO(幕張メッセ)で長野県須坂市のトロテック・レーザー加工機「事例紹介セミナー」が開催されました。
本ページでは、そのセミナーのビデオと講演内容をご紹介します。
【テーマ】市民参加型モノづくり×オープンデータ推進による地方創生
【開催日時】2018年2月21日(水)14:00~14:25(25分)
【講演者】兼松 篤子
名古屋大学 大学院情報学研究科
社会情報学専攻 情報社会設計論講座 安田・遠藤研究室 研究員
<主な研究活動> “モノづくりとオープンデータ”をキーワードに
地域におけるフィールドワーク
<主な研究フィールド>
長野県須坂市
・モノづくりによるオープンデータ推進:
レーザー加工機、イラストオープンデータ
・ICT/IoTによるオープンデータ推進:
Beacon、Arduino(子供プログラミング教室)
愛知県一宮市
・伝統産業,尾州織物によるオープンデータ推進
【導入モデル】Trotec Speedy 100R レーザー加工機、Atmos集塵脱臭装置
講演内容
下記の講演内容は、一部を省略してご紹介しています。
※全内容はビデオをご覧ください。
研究テーマの1つは、「市民参加型モノづくりとオープンデータ推進」
「私たちの研究室は様々な研究フィールドを持ち、この3年間で30以上の自治体様と地域情報化、オープンデータ推進を実践してまいりました。その中でも、長野県須坂市と愛知県一宮市においては、市民参加型モノづくりとオープンデータ推進を研究テーマの1つとしています。長野県須坂市では2015年から3Dプリンタやレーザー加工機を使い、愛知県一宮市では2017年から伝統産業である尾州織物をテーマに進めております。
オープンデータとは機械判読に適したデータ形式で二次利用可能な利用ルールで公開されたデータで、人手を多くかけずにデータの二次利用を可能とするものです。ただし、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従って、作者の名前、ニックネームを残すというルールがあります」
長野県須坂市の取り組み:2015年3Dプリンタ、2016年レーザー加工機を活用
「須坂市におけるこれまでの取り組みとして、2015年度は3Dプリンタを使って、2016年度からはトロテックさんのレーザー加工機を活用して、モノづくりとオープンデータをキーワードに取り組んでまいりました。2015年度は3Dプリンタを活用し、須坂創成高校生徒さんや一般の参加者の方を対象にスタンプを作るワークショップを行いました」
「イベント参加者に描いていただき、オープンデータ化したSTLデータは3Dオープンデータサイトというウェブサイトを構築し、どなたでも自由にダウンロードして活用していただけるように公開をしています。ただ、3Dプリンタはデータの出力に時間がかかるため、イベントなど限られた時間の中で出力したり、複数製作して配布するというのが難しい状況でした。そこで、2016年からは、レーザー加工機を活用し、須坂市動物園さんとのノベルティ開発や市内イベントにおいての活用などの取り組みを始めました。しかし、この時点は須坂市にレーザー加工機がなかったため、製作は他のモノづくり施設、岐阜県にあるファブコアというところのトロテックさんのレーザー加工機を活用しました」
「レーザー加工機が須坂市にあったら」の声に、導入前の課題と解決策
「イベントにおいて、レーザー加工機を活用するうちに、『レーザー加工機が須坂にあったら、地域の中で活用する機会が増えて更に良いのではないか』という声が出てきました。しかし、その一方で、誰が運用するのか。コストが莫大にかかるのではないか。安い加工機を買えば良いのではないか。資金はどうするのかといった心配や不安の声もありました。そこで、なるべくコストをかけずに運用で工夫しましょうという話になりました」
「例えば、『誰が運用するのか』という問いに対しては、NPO職員や市役所、公共施設職員などで運用しましょう。『コストが莫大にかからないか』という問いに対しては、市内の既存施設とそのスタッフで工夫しましょう。『資金はどうしますか』という問いに対しては、ソフト面の工夫の先端性を補助金への応募で確認してみてはどうでしょうか。民間による運営の可能性を模索するために、技術情報センターを管理するNPO法人から応募してみましょうということになりました。また、『安い加工機で良いのではないか』という問いに対しては、きちんと使える加工機で作りたい。補助金の割合を加工機に大きく使いましょうということで、トロテックさんのSpeedy100Rを購入しようという目標の話で、話が進んでいきました」
念願のレーザー加工機を須坂市に導入!
「そして、無事、申請していた地域発元気づくり支援金の交付を受け、9月26日、須坂市技術情報センターに念願のレーザー加工機が導入されました。午前中に施設への運搬作業が行われ、午後からは市の職員さんや市内で地域活動に関わっていらっしゃる方を中心にお声がけし、レーザー加工機の導入の説明会を開催しました。まずディーラーさん、トロテックさんからの話があり、その後、技術担当の方からのレーザー加工機の操作の説明を受けました」
「皆さん、非常に興味津々で、レーザー加工機の前に集まって、熱心に動画を撮られたり、メモを取られたりという姿が印象的でした。すると、『次のイベントでぜひ使いたいです。いつから使えますか』という声があり、導入したばかりで、管理運営する技術情報センターのスタッフの方も使い方はこれから覚えるという状況でしたけれども、早速活用を始めました。9月26日に導入してから、今日でまだ4カ月と26日しか経っていませんけれども、既に地域の様々なイベントで活用をしています」
導入から僅か4カ月と26日で、6つのイベントに活用
- 活用事例1: 須坂市動物園「秋の動物園まつり」(動物園,政策推進課,技術情報センター)
- 活用事例2: 須坂市動物園「ハロウィンZOO」(動物園,政策推進課,技術情報センター)
- 活用事例3: 須坂市動物園「市民参加型ワークショップ」(動物園,政策推進課,技術情報センター)
- 活用事例4: 須坂市技術情報センター「モノづくりワークショップ」(技術情報センター,政策推進課)
- 活用事例5: 須坂市健康づくり課「日曜須坂の健康応援教室」(健康づくり課,政策推進課)
- 活用事例6: 須坂市技術情報センター「安来市イベントでのトロフィー製作協力」(技術情報センター)
活用事例1: 須坂市動物園「秋の動物園まつり」
「まず初めに、レーザー加工機を導入してから、1週間後に、誰よりも早く一番乗りで使い始めたのは、須坂市動物園の飼育員さんです。須坂にレーザー加工機がなかった頃からノベルティ開発の関係でよくご存じだったこともあり、『早速使いたい』と申し出がありました。秋の動物園祭りが開園55周年記念でもあるので、何か特別なノベルティグッズを作りたいと相談を受け、表はMDF、裏はミラーになっているストラップを製作しました。イラストは飼育員さんが描かれたオリジナルのイラストで、オープンデータCCBYで公開されているものを使い、紐は須坂と同じくモノづくりとオープンデータ推進を進めている愛知県一宮市の伝統産業、尾州織物の糸を使用しています。飼育員さんがレーザー加工機を実際に操作されるのは、この日が初めてでしたが、動画を撮ったり、メモを取ったりと、操作方法を覚えていかれました。
ノベルティは全部で約200個用意され、秋の動物園祭りにて、宝探しアプリを楽しんでもらった入園者の方にプレゼントをしました。飼育員さん手作りのアイデアと心のこもったストラップは入園者の方に大人気で、『かわいい。欲しい』という声とともに、『え? これ、本当に手作りなんですか』と、完成度の高さに驚かれる方も多かったです。全部で7種類あるので、お気に入りの動物を選ぶ人や、親子でおそろいにする人、みんなで違うのを選ぼうとイラストがかぶらないようにするグループなど、とても楽しそうに選んでいらっしゃるのが印象的でした」
活用事例2: 須坂市動物園「ハロウィンZOO」
「同じ月の月末には、ハロウィンZOOのイベントもありました。前回の秋の動物園祭りのノベルティが大変評判が良かったので、更にもっと工夫をしたいと、今度はかぼちゃのシルエットの絵も描いていらっしゃって、その形の中にイラストを入れたノベルティづくりに挑戦をされました。また、この会からは手描きのイラストをデジタル化する最初のステップや、イラストレーターでのデータ作成まで、『加工の過程、全てを自分たちでやってみたい』とのことで挑戦をされました。イラストレーターを触るのは初めてということでしたけれども、前回と同じくたくさんメモをして手順を覚えていかれました。
そして、後日、前回とは違う飼育員さんと共に技術情報センターを訪れ、量産の作業をされました。撮った動画やメモの記録を元に、自分たちだけで製作されたそうです。飼育員さんは動物飼育の専門的な知識を持っていらっしゃるわけですけれども、その方が持つ専門的な知識の他に、レーザー加工機の技術を身につけることで、更に自分の専門分野を活かした、できることの幅を広げるきっかけになっていくのではないかというふうに思っております。また、技術を身につけた人が興味関心を持つ仲間を誘い、教えあって技術を伝えていくことで、どんどん輪が広がっていき、知識や技術を持った人が増えることで、地域活性にもつながっていくのではないかと思います」
「かぼちゃのシルエットのノベルティは、今回も全部で7種類、約200個用意され、ハロウィンZOOにて宝探しアプリを楽しんでもらった入園者の方にプレゼントしました。オリジナルのノベルティ開発もこの時で4回目になるんですけれども、そうなると、入園者の方も覚えてくださる方が増えてきて、『今回はどのノベルティかな』と、楽しみにしてくださっている様子でした。デザインの他に紐の色も何色かありましたので、この時も、デザインで迷い、紐の色で迷い、とても楽しんでいただいている様子でした。レーザー加工機が須坂市に導入されたことで、アイデアと工夫によって、作りたいものが自分たちだけで作れるという環境が整いました」
活用事例3: 須坂市動物園「市民参加型ワークショップ」
「3つ目の活用事例ですけれども、秋の動物飼育祭りの際に、入園者を対象としたかぼちゃの顔を描いてみようというワークショップを開催しました。元々飼育員さんがジャック・オ・ランタンの首飾りを作ろうというワークショップ用に用意していらっしゃったかぼちゃのシルエットに、入園者にかぼちゃの顔を描いてもらい、オープンデータCCBYとして公開をしました。集まったデータのうち、221のデザインをハロウィンZOOの際にオーナメントとして活用をしました。一つ一つ表情の違う個性豊かなかぼちゃが集まりました。データの制作はこちらで、レーザー加工機での作業は飼育員さんにお願いし、協働で製作を行いました。イベント後は園内の休憩所にて展示し、入園者の方に楽しんでいただいています」
「このワークショップは『かぼちゃの顔を描いてね』というところから始まったんですけれども、予想もしなかった個性のある表情豊かなかぼちゃがたくさん集まりました。中には尻尾の生えているかぼちゃや、耳の付いているかぼちゃもありました。モノづくりの楽しさは考える力や想像力を育て、そして、新しい技術を小さなうちから知ることで、普段の生活の中でのふとした気付きにつながり、そういった積み重ねが将来地域で活躍する人材を育てるところにつながっていくのではないかというふうに思っております」
活用事例4: 須坂市技術情報センター
「4つ目の活用事例として、技術情報センターにおいて、全部で6種類×2回のワークショップを開催しました。開催の目的はレーザー加工機を一般公開するにあたって、どのような素材が加工できるのか、そして、どのようなことができるのかというのを市民の方に知っていただけたらと思い、技術情報センターさんと一緒に開催をしました。
手順はこのようになります。まず最初の説明として、制作物と著作権についてお話をします。次に、紙にオリジナルイラストを描いていただき、タブレットを使ってデジタル化の作業を行います。そして、加工機で加工した後、組み立て、完成というステップです。
大人から子どもまで、たくさんの方に参加申し込みをいただき、1講座10名×12回でしたので、全部で120名のワークショップでしたけれども、申し込みを開始してから、あっという間に定員いっぱいになってしまい、キャンセル待ちになるほどの大人気でした。こちらは参加者の方の完成作品です。たくさんの方から『楽しかった』『参加して良かった』『ぜひ使えるようになりたい』という声を頂きました」
「作る人を育てるということは、技術を持ち、地域で活躍する人が増えるということで、結果的に地域活性化につながっていくのではないかというふうに思っております」
活用事例5: 須坂市健康づくり課「日曜須坂の健康応援教室」
「5つ目の活用事例として、健康イベントでの活用が挙げられます。須坂市では須坂JAPANという健康づくりと共に地域の活性化を目指すという取り組みがあるのですが、その一環として、月末の日曜日に、日曜須坂の『健康応援教室』という健康イベントが開催されています。その中の健康ウォーキングの会では、スロージョギングの指導を受けられる機会があり、そこで歩くテンポを保つためのガジェット、須坂スロジョグ君という名前が付いているんですけれども、その開発を健康づくり課さんと協働で行いました。
ガジェットのケースはレーザー加工機を使い、中のプログラムは毎月第2土曜日に技術情報センターで開催されている子どもプログラミング教室において、子どもたちにコードの入力をしてもらい製作をしました。導入された加工機を使って、研究室とそして、健康づくり課さん、市内の子どもたちと出来た市民の健康促進に役立つガジェットです。日頃の学びが身近な人の役に立つツールとなって形になるのは、子どもたちにとってもとてもうれしいことですし、子どもたちが今学んでいる知識と技術があと何年かして、高校生、社会人になったときに、地域を支える頼もしい力となることを期待しています」
活用事例6: 須坂市技術情報センター「安来市イベントでのトロフィー製作協力」
「6つ目の活用事例は、他県におけるイベントで使うトロフィー製作協力です。先日、2月10日に島根県安来市において、地域の課題について考えるアイデアソンが開催されました。そこで使うトロフィーを私たち研究室のつながりから、技術情報センタースタッフの方にお願いして作っていただきました。このトロフィーは中心部分がクルクルと回転するようになっています。モノづくりをきっかけに、愛知県一宮市の他に島根県安来市とも地域と地域の新しいつながりが出来ました」
今後の課題
「須坂にレーザー加工機が導入され、活用事例もたくさんでき、うまく活用が進んでいますけれども、一方で、今後の課題もいくつかあります。1つ目は、他の地域やその地域のモノづくり施設との連携です。愛知県一宮市、島根県安来市とのつながりは出来ましたけれども、モノづくりをきっかけに、更に他の地域とも連携が出来たらいいなということを思っています。2つ目は、地域を盛り上げていくために次年度からの事業化に向けて、運用ルールなどの検討をしていきたいというふうに思っています。加工機を地域の中でより多くの人に利用してもらい、地域を盛り上げていく工夫をしたいと考えます。そして、3つ目は、運用スタッフの技術的、経験的な不足を減らすために、今度も継続的なトレーニングが必要ではないかというふうに考えています。作る人、技術を持ち、地域で活躍する人を増やすために、運用スタッフはトロテックさんやディーラーさんからの協力を得つつ、常に技術を磨き、新しいアイデアと話題提供によって、より多くの方にモノづくりに興味を持ってもらえるような、そんなふうに努めていくことが重要になっていくと思っています」
まとめ
「最後に、市民参加型モノづくりとオープンデータ推進による長野県須坂市の事例をお話ししてきましたけれども、レーザー加工機の技術の習得は地域での人材育成や更なる産業活性化となり、地域活性化につながっていくというふうに考えています。また、レーザー加工機の活用、モノづくりをきっかけに、新しく地域と地域のつながりも出来ます。須坂市にレーザー加工機が導入され、地域の中からは『加工機を活用したい』という相談がたくさん出ています。これからも須坂市ではトロテックのレーザー加工機を活用しながら、行政や企業、住民が一体となってモノづくりによる地域振興を積極的に進めていきたいというふうに思っております」