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事例紹介セミナー
「北海道平取町」

2018年2月21日、第1回 地方創生 EXPO(幕張メッセ)で北海道平取町のトロテック・レーザー加工機「事例紹介セミナー」が開催されました。本ページでは、そのセミナーの講演内容をご紹介します。

【テーマ】平取町地域活性化協議会における実践型地域雇用創造事業の取組み

【開催日時】2018年2月21日(水)13:30~13:55 (25分)

【講演者】 大石 英司  
      平取町地域活性化協議会 実践支援員リーダー

【導入モデル】Trotec Speedy 400 flexx レーザー加工機

講演内容

地域活性化協議会の活動とは・・・

「これからレーザー加工機の活用による地域活性化の事例ということで紹介したいと思います。私、北海道の平取町(びらとりちょう)というところからやってまいりました、平取町地域活性化協議会の大石と申します。よろしくお願いいたします。

私、実は出身は横浜でございます。縁がありまして北海道に行きました。まだ6年ぐらいしか経っていないのですが、平取町の地域おこし協力隊ということで、協力隊の活動を経た後、現職の平取町地域活性化協議会に在籍しております。皆さん、ご存じのとおり、『地域おこし協力隊』というのは総務省の事業になります。一方、現職の『地域活性化協議会』は厚生労働省の雇用創造事業を受託していまして、その中で活動しいます。雇用創造事業と言いますと、特に新商品を開発し、売れる商品を開発して、そして、その地域の雇用につなげていこうといったところが大きな目的です。皆さん、スクリーンの方でご覧いただきますと、何やら作品の中に不思議な文様が施されているかと思われます。これは我々の平取町の地域資源であります、アイヌ文様になります。こういった商品を開発するに至るまでのいきさつと言いますか、地域的な課題も含めて、その背景も順を追ってご紹介してまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします」

平取町の紹介

「まず平取町というと、皆さん、ご存じでしょうか。ほとんどの方、ご存じない方が多いです。漢字で書くと平取と書きます。これをまさか『びらとり』というふうに濁るとは私も思ってみなかったです。地図で見ると、こんなところです。札幌から大体車で2時間ぐらいでしょうか。千歳や苫小牧からも車で1時間ぐらいです。北海道の中では日高地方に属します。細かい(平取町の)プロフィールはホームページ等で見ていただくとありがたいです。ここで特にご紹介したいのが、(スライドの)一番下のアイヌ文化です。北海道全道には、アイヌ文化ゆかりの地が点在しております。特に阿寒や白老といったところは観光地として非常に有名なところでございます」

平取町のアイヌ文化と伝統工芸

「一方、平取町はというと、そんな観光地というほどではないんですが、リアルなアイヌ文化が今もなお色濃く残った地域といって差し支えありません。アイヌの文化の聖地と私は思っています。平取町には沙流川(さるがわ)という、清流日本一に何度も選ばれている川が町を北から南に貫流しています。この流域に二風谷地区というのがございます。二つの風の谷と書いて『にぶたに』と読みます。これも(最初は)なかなか読めないです」

かつての工芸

「実はこのアイヌ文化、平取町の中のアイヌ文化、この中心的な役割を担っているエリアがこの二風谷でございます。この二風谷では工芸が古くから盛んに行われておりました。

昭和40年代ぐらいでしょうか。本州の方々が新婚旅行というと北海道旅行が当たり前だった時代があります。ステータスと言いますか。そういったところで、結婚のお祝いの返しに木彫りの熊やニポポをお祝い返しに買いにきて、民芸品が非常に飛ぶように売れていた時代です。写真は当時の民芸品でございます。木彫りの熊とか、ニポポ。ニポポというのは夫婦像なんです。右上の写真が二風谷の民芸店の様子で軒を連ねております。また軒先では木彫りの実演もやっています。熊彫りさんと言って、熊を彫ったりするのを実演しています。日高地方は競馬のファンの方ならピンとくるかと思いますが、馬産地として非常に有名です。そういったことで、馬の木彫りもあります。右下の写真は工芸品を製作する様子です。とにかく売れるんです。すごく売れたということです。完成していないのもお客さんが買っていっちゃうというほどです。

木を扱う仕事としては大工さんということになるんですが、大工さんは家を建てるよりも工芸をやった方が儲かるぞということで、みんな工芸家に転身していったというふうに聞いています。しかし、だんだん衰退してきます。民芸店はほとんど淘汰されてしまいまして、わずかに残った工芸家さんたちだけが伝統を彫り継いでいるということになります」

二風谷の代表的なアイヌ伝統工芸品

「それでは、二風谷の代表的な工芸品はどういうものなのか。アットゥシとイタという、この2つのご紹介になります。左側がアットゥシで、これは反物です。右側がイタでお盆です。アットゥシというのはオヒョウニレというニレ科の種類の木の樹皮をはぎ取ってきて、そこから繊維を取り出して糸を作って、その糸を使って織り上げた反物のことです。そして、イタは、クルミやカツラなどの広葉樹、それの板に地域の独特のアイヌ文様を施した木製の浅いお盆のことです」

北海道初、経済産業省の「伝統的工芸品」に指定

「この2つが2013年、北海道で初めて伝統的工芸品に指定されています。伝統工芸ではなく、「伝統的」と言い、『的』っていう字が入ります。伝統的工芸品です。経済産業省から指定されるのですが、右側に伝統的工芸品マップがございます。皆さんのお住いのエリアの伝統的工芸品も載っているはずです。ここで見ていただきたいのが、右上の北海道の地図のところで、ここにマークが2つ付いています。先ほどご紹介しました、二風谷イタと二風谷アットゥシなんです。この2つが指定される前はどうだったのかというと、北海道には伝統的工芸品がなかったということになります。しかも、今回指定されたのがアイヌの工芸ということで、これは非常に素晴らしいことなのです」

「伝統的工芸品」の指定を受けるための要件

「伝統的工芸品の指定を受けるためには5つの条件がございます。まず簡単に言うと、日用品であること。2つ目が手作り品であること。3つ目が、伝統的に100年以上の歴史のある技法が施されていること。そして、同じく伝統的な100年以上使用された材料を使い続けていること。(最後に)ある一定のエリアに産地が集積していること。この5つ全てを満たしていないと指定を受けることができません。

今回、アイヌの工芸が伝統的工芸品に指定を受けるにあたって、この条件の中で3番と4番、つまり100年以上の歴史を証明することが非常にハードルの高かったと言われています。なぜでしょうか。北海道開拓期以降まだ歴史が浅いからというわけではないんです。北海道開拓される前からアイヌの工芸は盛んに行われていたわけです。じつはアイヌ文化は文字がないのです。つまり、古文書がないということは、100年以上の歴史を用意に証明できるすべがなかったということです。

そこで活躍したのがイザベラ・バード。ご存じの方がいらっしゃるかもしれないです。明治の初期には、様々な外国人の方が来日しております。このイザベラ・バードも1878年には横浜港に到着して、東日本等を転々としながら平取町を目指した、イギリスの女性旅行家です。この旅行記が本になっていて、訳されているのが『日本奥地紀行』と言います。この旅行記の中に彼女は、二風谷アットゥシの製造の一部始終を克明に記録していたのです。それが100年以上の歴史の証明につながっていきます。また、二風谷イタに関しては、アメリカの人類学者、フレデリック・スター、ご存じの方、いらっしゃると思います。日本では御札博士として有名です。この方の個人の収蔵品の中にやはり二風谷イタの記録があるんです。こういったことが100年以上の歴史の証明につながったということになります」

伝統的工芸品の指定後に残された課題

「せっかく伝統的工芸品の指定を受けましたけれども、非常に大きな課題が残っています。日本全国の伝産地、伝統的工芸品の産地を伝産地と言うのですが、伝産地共通の悩みです。担い手の不足、特に平取の場合は手作り品といってもすごく数の多い工程を経て作りますので、販売価格が高いです。ですから、なかなかお客さんが買い求めていただけないのです。そういったことで、アイヌ文様を広く世間に知っていただくすべが閉ざされていると言いますか、少なくなって、PRすることが難しくなっています。そこで、もっと安くアイヌ文様が施された何か商品があると、それを皆さんに買っていってもらって、その買ってもらったアイヌ文様の素晴らしさに気づいていただければ、本物の手作りの伝統的工芸品に関心が誘導されるのではないかという、こんな声が出てくるわけです

伝統工芸品を彷彿とした安価な商品開発

「そこで、平取町の地域活性化協議会、私どもの組織ですけれども、厚生労働省の事業を活用して地域資源を活用した新商品の開発に乗り出すわけです。商品開発の原点と言いますか、商品の原点はこんな感じです。ループタイといいます。皆さん、ループタイはお分かりでしょうか。ネクタイの替わりに付けるおしゃれな、こんな感じのものなんですが。これは先ほどご紹介しました二風谷イタ、あれの小さいものがループタイのトップに付くような商品が欲しいという声があったのです。これ(開発の原点)は粘土で作ったものですが、こんな感じのものを(二風谷イタのように)手作りしたらどうなんだろうと。右の写真を見ていただくと、手が写っているのが小さいイタです。こんなのがあるといいねということですが、これだと手作りですから、やっぱり高くなってしまうのです」

開発商品のコンセプト

「開発する商品コンセプトというのはちょっとまとめるとこんな感じになります。やはり機械加工により製造されるということです。そして安価に購入できるお土産であると。修学旅行生、中学生や高校生が気軽に買える、500円から1,000円ぐらいのお土産品という位置づけです。そして、沙流川流域に伝わるアイヌ文様。このアイヌ文様というのは北海道全部同じではないのです。地域によって違いがあります。ですから地域資源というのはアイヌ文様というよりも、沙流川流域のアイヌ文様です。そして、プリントやいろいろな機械加工品を外注して作るのではなくて、全て地元で作りたいということで、『オール・メイド・イン平取』で開発を進めることにしました

機械加工 + 地元で手作り ⇒ レーザー加工機に着目

「機械加工ということで、ちょっと長くなりましたけど、やっとレーザー彫刻機*が登場するわけです。機械加工にレーザー彫刻機を使ったらどうだろうということです。そこで(東京都)目黒にメイカーズベースがあり、3年前にはメイカーズベース札幌がございまして、今、事情によって閉めていますけれども、そこに行ってレーザー彫刻機と私、初めて出会います。そこにトロテックさんのレーザー彫刻機が置いてあったので、これでちょっと私が勝手なバラの図案をレーザー彫刻したらこんな感じになりました。(バラの彫刻を)持って帰って会社のみんなに見せたら、『これ、いいね。これは戦力になるんじゃないの』、『そしたら地域の資源のアイヌ文様を彫ってみようよ』ということで、一部の工芸家さんからデザインをもらってデジタル化し、こういう二風谷イタそっくりのレーザー彫刻機の試作をしたのです。『なお、いいね』ということになりまして、『じゃあ、この図案以外にもいっぱい作っていこうよ』ということになりました」

*レーザー加工機は、その機能から別名、レーザー彫刻機、レーザーカッターとも呼ばれています。

アイヌ文様のデジタル化

「そこでアイヌ文様のデジタル化の作業が始まります。一番左の写真、これは手作り品です。彫刻刀で彫ったものです。これの上にイラストレーターで彫刻刀の線をトレースしていきます。そしてその後、白黒に色を分けて、黒い部分がレーザーで彫刻されるところです。白は何もしないところ。右側の図で、青い線はカットするところと思ってください。こんな感じでレーザー彫刻のデジタルデータができ上がります。ここでちょっともう一回戻りますと、手作り品の写真とレーザー彫刻品のデータを比べてみると、彫刻刀の切ったところがレーザーに取って代わるわけではないのです。むしろ、彫刻刀で削っていないところがレーザーで彫られているような。最初、彫刻刀で彫ったところをそのままレーザー彫刻していたんですけれども、なんか見栄えが非常に悪くて。なかなかきれいにでき上がらないということで、デジタル化で非常に苦労したんですけれども、工芸家さんのデザインを損ねず、そしてダイナミックに陰影が、メリハリがあるようなものということで、二風谷イタのデジタル化のノウハウの構築に成功していきます。こうして様々なデザインをデジタル化していくわけです。そんなことをしているうちに、平取町にもレーザー彫刻機がやって来ます。これは地方創生加速化交付金を使って鵡川・沙流川WAKUWAKU協議会が購入したもので、平取町が譲渡を受けました」

レーザー加工機で製作した作品

【材料】エゾマツ

「デザインができ、レーザー彫刻もありということで、ここから先は作品の紹介です。どんどん作ってきました。皆さん、最初に冒頭に紹介したループタイ、こんな形になりました。材料はエゾマツです。非常にファッショナブルで非常に軽くて、女性からすごく人気です。同じレーザーの文様で金具を使う、付け替えるだけでいろんな商品バリエーションが増えます。マグネット、ピンバッチですね。コースター、これはちょっと変わっていまして、ミラーです。アクリルや木のミラーも作っています。女性がやっぱりお客さんになってほしいということで、ヘアゴムなども作っています」

【材料】アクリル、金属、アルミ缶

「アクリルの作品も増えています。これはアクリルなんですけれども、アクリルに着色したものでございます。これはバングルです。アクリルにアイヌ文様を彫刻した後、アクリルを曲げています。平取町のレーザー加工機は金属の彫刻も可能ということで、これは市販の名刺ケースにアイヌ文様を彫刻したものになります。これ(アルミ缶)はロータリーアタッチメントというオプションを購入していまして、筒状の表面に彫刻ができます」

【材料】アクリル

「最後にシルバーアクセサリー、これにも挑戦しています。シルバーアクセサリーのペンダントトップです。これは、レーザーで(アクリルを)カットしてシリコンで型を取ります。そして、銀のシルバークレイを埋め込みます。それから焼いて、磨いて、でき上がりです」

各地での試験販売

「これまで作ってきた商品に対して、その商品力を確認する上で、我々は各地で試験販売を繰り返し行ってまいりました。試験販売の結果、非常にマーケットで人気のあったものを対象に平取町の町内の事業主さん、あるいはこれから創業や起業を計画している個人の方々に無償で譲渡します。そして、譲渡を受けた方がその商品の製造と販売をもって、新たな雇用が生まれるという、そういったところが狙いです」

今後の課題

「今後の課題でございます。譲渡をしても、やっぱり注文がないと雇用や起業につながらないです。2~3個売れても全然うれしくないということで、ある程度の中量生産を維持し続けるだけの販路がやはり必要です。また、伝統的工芸品とレーザー加工品の棲み分け、これが非常に難しいです。日本全国に伝統的工芸品がございますが、すごく精細な技術を持って作られているものが多いので、仮に知らない人がレーザー彫刻品を見て、『いやあ、北海道の伝統的工芸品ってすごい細かくてきれいだよね。素晴らしい』なんて誤解されてしまうこともあるのです。それだけは避けなければならないです。そういった懸念もありまして、地元の工芸家さんたちには、『レーザー加工機でアイヌ文様を彫るってどういうことよ』なんていうふうに考えている方もいらっしゃらないとも言えないです。また、レーザー加工機をモノづくりだけではなくて、観光利用していこうということで、体験型プログラムも試行中です。さらにレーザー加工機を有効活用したいということで、請負生産です。もし注文をいただければ、ご希望に副ったお話で納めていけるのではないかと思っています」

Speedyシリーズ
ビジネスを始めるにも、生産能力を高めるにも理想的な環境です。

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